大阪地方裁判所 昭和39年(レ)230号 判決 1966年3月07日
理由
一 被控訴人が昭和三五年四月一三日、控訴人に対し金五〇、〇〇〇円の貸与を約し、金四三、二五〇円を現実に交付したことは当事者間に争いがない。
被控訴本人尋問の結果によれば、右消費貸借契約には毎月一三日から翌月一二日までを一ケ月として月四分五厘の割合による利息を支払う旨の約定が附されていたこと、右約定に基づき昭和三五年四月一三日から同年七月一二日まで三ケ月分の前利息として金六、七五〇円を元本五万円から天引する旨の契約がなされたことを認めることができ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。従つて消費貸借契約は金五万円について成立したものといわなければならない。
二 利息制限法第二条、第一条によると、右天引額中利息の支払いとみなされるのは、現実に交付された金四三、二五〇円を元本として三ケ月間に対する年二割の利率で計算した金額、即ち金二、一六二円五〇銭であつて、これを超える金額即ち金四、五八七円五〇銭は元本の支払に充当されたものとみなされる。
三 控訴人が被控訴人に対し、昭和三五年七月一三日から元本弁済期である同年一二月一二日までの間、毎月一三日に弁済のため金二、二五〇円宛合計金一一、二五〇円を支払つたことは当事者間に争いがない。
しかして被控訴本人尋問の結果によれば、右弁済は前記利息の約定に基づき昭和三五年七月一三日から同年一二月一二日までの期間に対する利息の弁済に充当する旨の合意のもとになされたものであることが認められ、控訴本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信しない。
控訴人主張のその余の弁済の事実及び債権譲渡の事実はいまだこれを認めるに足りない。
四 ところで右利息の約定は利息制限法に抵触しない限度で効力を有するものであるところ、次にこの点について判断する。
利息制限法第二条は利息の天引契約の効力を定めるが、その前提として、当事者間の利息契約は債務者の現実受領額を元本として同法第一条所定の利率により計算した金額を超える金額の支払いを約する部分につきこれを無効とする趣旨であると解される。なぜなら同条は天引額中右金額を超過する部分を利息の支払いとして認めず、これを元本の支払いに充てたものとみなすこととしているからである。同条の規定は、本件のように元本弁済期の途中までの期間に対する利息が天引された場合において、残り期間に対する利息債権がどの限度で有効に発生するかという問題とは直接関係がない。しかしながら、同一の利息契約の効力について、利息が天引によつて支払いずみとみなされる場合と、天引されなかつた分について後から請求する場合とで、別異に解すべき根拠は見当らない。同条の意図するところは、利息の天引は消費貸借契約の要物性を害するものではないという前提をとりつつ、このことが債務者の現実に利用し得ない元本に対しても利息債権が発生するという形で実質的高利がおこなわれることを防止するため、利息契約の効力を定めるに際しては債務者の現実受領額を元本として計算するということにあると解される。そうすると、右のような考慮を要するという点では、利息が天引によつて支払われたものとみなされる関係についても、一部期間の天引がなされた場合の残存期間に対する利息債権発生の関係についても、両者は全く同様であるといわなければならない。従つて右後者の場合についても同条を類推して、債務者の現実受領額を元本として利息契約の効力を考えるべきものと解される。
五 これを本件に即してみるに、前記利息の約定は昭和三五年七月一三日から元本弁済期である同年一二月一二日まで五ケ月間の利息として前記現実受領額(金四三、二五〇円)を元本として年二割の利率により算出した金額即ち金三、六〇四円一六銭の支払いを約する限度において有効であつて、それを超える部分につき無効であると解すべきものである。控訴人が利息として支払つた金額は金一一、二五〇円であること前記のとおりであり、従つて超過支払分金七、六四五円八四銭は利息の支払いとしての効力を有しない。
そしてこの場合右超過支払分は元本債権が残存している限りその弁済に充当すべきものと解される。
なお各期の利息を支払う度に制限超過額につき右充当がなされる結果、場合によつては残存元本額が現実受領額以下に減少することもあるが、その場合でも右制限利息算出の規準となる元本額は残存元本額によるべきではなく、現実受領額によるべきものと解される。なぜなら、債権者が元本弁済期まで現実受領額に対し同法第一条の定める利率による利息の支払いを受けることについて有する期待的利益は、元本弁済期以前に前記充当の効果を認めたからといつてこれを害すべきではないからである。